白ワインで乾杯するご褒美ごはん

定時まであと5分。
チャイムと同時にダッシュすれば、17時半の電車に乗れる。
今日のためにこの一週間フル回転で仕事を片付けた。
遅れるわけには、いかない。


同僚の「おつかれさまー」という声を背中で聞きながらビルを出て、
足早に駅へと向かう。
狙った電車には乗れた。あとはまっすぐ家に帰るだけだ。


「月に一回、ご褒美ごはんの会をしよう!」
そんな提案を妻から受けたのは、今年の初めのことだった。
それ以来、交互にお題を出し合っては、
それに合う一品をお取り寄せして楽しんでいる。


今月は僕が料理を探す番。妻からのお題は、
「ご飯にもなっておつまみにもなる、お酒に合う夏っぽい料理。
この前買った甲州の白ワインに合えば最高!」
というなかなかの無理難題。
だからこそ、あっと驚かせたい気持ちが大きくなった。


家に着くと同時に、時間指定にしていた宅配便が届く。
少しして、同じく急いで帰ってきた妻を玄関で出迎えた。
「さて〜、お題はクリアできたかな?」
いたずらっぽく笑う彼女の前で、箱を開けて見せる。
「わぁ、鯖寿司だ!」
早速お皿に盛り付けて、キリッと冷えた白ワインで乾杯だ。


「あんまり知られてないけど、滋賀県には“鯖街道”っていう道があって、
鯖寿司の激戦区なんだよ。
ここの焼き鯖寿司は国産の鯖を一番脂が乗る真冬に仕入れて自社で焼き鯖にして…」
と今回の苦労を語ろうとしたが、もう聞いていない。
「おいしい!肉厚でジューシーなしめ鯖が、舌の上でとろける〜。
白ワインが鯖の脂をスッキリ流してくれて後味も爽やか。合格!」
予想以上に嬉しそうな彼女を見て、思わず僕も笑顔になる。


今月もお疲れさま。
さて、来月はどんなお題で彼女を困らせてみようかな。